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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)1585号 審判 1976年7月19日

申立人 新原光子(仮名)

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

一  本件申立の趣旨および実情

事件本人は昭和五〇年三月一一日以来、非定型精神病の病名で、○○○病院に入院加療中であるが、同人と同人の妻である申立人とは、現在、離婚調停中であるので、保護義務者の順位を変更し、事件本人の扶養義務者中から保護義務者の選任を求める。

二  当裁判所の判断

1  昭和五一年(家イ)第六〇二号夫婦関係調整事件の記録ならびに本件における調査および原口アサ子、申立人に対する各審問の結果によれば、次の事実が認められる。

申立人と事件本人とは昭和三九年五月四日婚姻し、二人の子ももうけて当初は平穏な家庭生活を営んでいたが、事件本人が昭和四二年頃非定型精神病の病名で○○○病院に入院し、そのときは社会内生活によつて回復を図るべく早期に退院したものの、昭和四九年一一月一五日再び非定型精神病の診断を受けて同病院に入院して以来、昭和五〇年一月二九日退院、同年三月一五日入院、同年五月一五日退院、同年同月二三日入院と、入退院を繰返し、現在もなお入院中であること、および結婚前にも同様の病歴があつたこと等から、申立人も次第に事件本人との離婚を考えるようになり、昭和五一年二月二四日当庁に、夫婦関係調整(離婚)を求める調停を申立て、現在、同事件は係属中である。そして、申立人は保護義務者の順位変更および事件本人の扶養義務者のうちから保護義務者を選任することを求めて、同年六月一二日本件申立をした。しかしながら、事件本人の扶養義務者として現存する、いずれも事件本人の姉である岡田カズヨ、原口アサ子、大山喜美のうち、長姉岡田カズヨは現在東京に居住している上、小学生の子二人をかかえ、夫の仕事も軌道に乗らず、本人も仕事に出ているなどの事情から、到底、事件本人の保護義務者としての任を果せる状態ではなく、また、次姉原口アサ子、三姉大山喜美はいずれも大阪府下に居住し、現在、一応安定した家庭生活を送つてはいるものの、いずれも精神病歴を有し、再発のおそれもある状態であつて、事件本人の保護義務者となるのに適切ではない。

2  以上認定の事実によると、申立人は事件本人の法定の保護義務者ではあるが、現在、事件本人との間で夫婦関係調整(離婚)調停中であるから、直ちに、精神衛生法二〇条一項二号に該当するわけではないが、同法条の趣旨に鑑みて申立人を事件本人の保護義務者とすることは相当ではないと考える。そこで、事件本人の扶養義務者である事件本人の姉たち三名についてみるに、いずれも上記各事情のもとにおいては同法二〇条の保護義務者として、その義務を遂行させることは適当ではないことは明らかである。このような場合には、同法二一条に定める当該精神障害者の居住地を管轄する地の市町村長が保護義務者になると解するのが相当である。この点につき、「扶養義務者が数人ある場合に、それらの者がすべて保護義務を行わせるのに適当でないときでも、家庭裁判所は保護義務を行わせるのに比較的適当と認める者を選任するほかない。」とする見解もあるが、精神障害者の保護を目的とする精神衛生法の立法趣旨を考えると、現実に義務を行わせるのが適当でない者を保護義務者に選任することは矛盾というべきであるので、当裁判所は上記見解をとらない。

よつて、当裁判所は事件本人の保護義務者の選任をせず、そうである以上、順位変更の申立も申立ての利益がないから、本件申立をいずれも却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 佐野久美子)

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